研究科長挨拶
本研究科のめざす政治学の研究と教育
政治学研究科長
佐藤 正志
早稲田大学大学院政治学研究科は、1951年の設立以来、延べ1200人以上の人材を、研究・教育職を中心に、社会の多様な諸分野に送り出してきました。現在は、教員45名(専任25名、兼坦7名、非常勤13名)と、修士課程97名、博士後期課程71名の学生が、政治学の教育と研究に励んでいます。
本研究科では、古代ギリシアに成立した政治哲学から、20世紀後半のアメリカで発展した現代政治学まで、その学問としての歴史をふまえ、現時点で国際的に最も標準的であり、かつ同時に21世紀における新たな展開を見通すことのできるような先進的な政治学の研究と教育を目指しています。
そのため、5つの研究領域を軸として、専門的に深く、同時に総合的に幅広く、政治学を学ぶことができるような教育・研究システムを確立しています。第一に、政治過程など現代政治分析の領域。ここでは、現代政治学の諸理論の探求と現代日本政治の分析が行われています。その中には、メディアやコミュニケーションの理論と分析も含まれています。第二に、政治思想・理論の領域。ここでは古代から近代までの政治思想史研究と現代の規範的政治理論や政治哲学の探究が行われています。規範的価値と制度設計という点で政治思想に密接に結びついた憲法をここで一緒に学ぶことができるのも大きな特徴です。第三に、比較政治学の領域。ここには、地域研究や比較政治研究と日本および西洋の政治史が含まれます。アジアの中の日本に立脚し、そこに視座を定めながら、日本と世界の政治の現在を比較と歴史社会学の方法で探求しています。第四に、国際関係研究の領域。ここには、国際政治学、国際関係論、国際政治史、外交史などが含まれ、国際関係の理論や歴史を学び、現代の国際関係の分析が行われています。最近では、国家間にとどまらず、グローバルに国際関係を捉えようとする、新たな歴史的・思想的・理論的探求が進められています。最後に、第五の行政学と公共政策分析の領域。ここにでは、行政学、自治行政学、国際行政学などを通じて、ローカルからグローバルなレベルにまでわたって、行政の理論や政策の分析を、行政法や政治機構・制度などの研究とも密接に関連しながら進めています。公共経営研究科とは密接な関係をもち、研究・教育を協力して行っていますが、伝統的な行政にとどまらず、ひろく公共経営にたずさわる専門職業人の養成・教育という社会的使命を果たそうとする公共経営研究に対して、本研究科のこの領域は、歴史的に政治学と密接に関連して発展してきた公共政策の理論と分析の研究に力点がおかれています。
上記の5つの研究領域は、政治学を学ぼうとする大部分のひとの関心を受けとめることのできるものだと思います。しかし同時に、私たちは、それらのそれぞれの専門分野を横断し、超えてゆくような視座と研究も大切にしたいと考えています。そうした視座を生み出し、研究を可能にしてゆくために私たちが強調しているのが、政治学の方法論です。統計分析などを含む経験的方法、ゲーム理論などの数理分析、多様な価値規範の観点から政治をみることを学ぶ規範理論の三つをすべての学生が学ぶことを強く勧めています。そのため、それらの基礎となる方法論科目の国際標準化の努力をおこなっています。これらはあらゆる研究にとっての基礎となるとともに、国際的に発信してゆくことのできる創造的な研究をうみだしてゆくものと確信しています。2006年の夏休みに行われた集中的な上級コースの方法論セミナー(軽井沢でのクールセミナー)には修士課程の1年生のほぼ全員が参加し、いわば一つの共通ワークショップが実現され、活発な研究交流が行われました。こうした実践を通じて、私たちは、5つの研究領域をいわば縦の軸とすると、方法論を横軸として、立体的に、大きな建造物として政治学を構築する協働の場を創造する努力をしています。このような私たちの試みが評価され、2005年度から2006年度の「魅力ある大学院教育イニシャティブ」に選ばれ、そのプロジェクトはさらに強力に推進されています。
本研究科の一つの特徴は、政治経済学部の上に設置され、経済学研究とひとつの学術院を構成していることです。つまり、経済学ととくに密接な関係をもちながら政治学を研究・教育できる環境をもっているということです。政治と経済がきわめて複雑にからみあっている現代世界を分析するのに、それは大変大きな利点です。政治経済学部では、政治学と経済学が協力しながら政治経済学というあたらしい学問分野の開発を目指すとともに、地域や国際社会の分析での政治学と経済学の協力を推進し、そのような国際政治経済学的な視点と方法を身につけた人材を養成することを目指して、2005年に国際政治経済学科が新設されました。本研究科も、経済学研究科と一緒に、そのような新しい学問分野の創造と研究における政治学と経済学の協力の可能性を探究し、また、国際政治経済学科で教育を受けたような学生の問題関心に応えられるような体制を準備しようとしています。現在、本研究科と経済学研究科を拠点とした共同研究である「現代アジア学の創生」と「開かれた政治経済制度の構築」という2つの21世紀COEプログラムが進行中ですが、それらは、まさしく上記の国際政治経済学の理念の実践であり、それらの貴重な研究成果は政治学研究科の研究・教育に多大な貢献をなすものとなるでしょう。
本研究科は、これまで、研究者のほかに多くのジャーナリストを社会に送り出してきました。また、本研究では、政治的コミュニケーション研究を中心としたメディア、ジャーナリズム研究が、長い研究の伝統と研究資料の蓄積の上に立って、現在もきわめて活発に、精力的に進められています。またジャーナリスト志望の学生も多く受け容れています。本研究科では、そのような実績に基づいて、2005年度より文部科学省の補助金を得て、独創的な「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」を実施しています。ここでは、科学・技術文明に満たされた現代に不可欠な新しい分野のジャーナリストの養成を目指しています。同じように、上記に述べたような共通のツールとしての政治学の方法を学び、公共性にかかわる政治学の諸分野を学ぶととともに、メディアとジャーナリズムについて学び、そのうえで、さらに政治学を専門的に学んだり、あるいは経済学を専門的に学ぶなどして、専門的な知識を身につけたジャーナリストの養成を私たちの社会的使命であると考えています。「科学技術養成プログラム」はそのような私たちの大きな構想の実現のための第一歩です。
上記に述べてきたような本研究科の研究・教育体制の改革の流れは、これまでの研究科長とすべての教員、スタッフ、さらには大学院生の協力で進められてきたものです。修士課程から博士後期課程にいたるまでの、博士学位取得までの一貫した体系的で高度な教育システムの確立、同時に、修士課程で、どのような活動分野においても役立つ基礎的な方法というツールと生きた知識として専門的職業人の活動を支える専門的教育のシステムの確立、それらが両立可能な制度を、大学院を取り巻く状況の急激な変化を正面から受け止めがら実現してゆくことが、これまでの改革を受け継ぐことであるように思います。すべての教員、スタッフ、大学院生とともに、私も微力ながらその改革の努力に参加したいと考えています。
(2006年9月21日)
